「川崎の運河にサメ、それは何を意味する」(1975年 / 2歳)

名作にして奇妙・・・シカバネとセビレに気をつけろ

スティーヴン・スピルバーグ監督作『ジョーズ』、
トビー・フーバー監督作『悪魔のいけにえ』。
モンスターパニック、スラッシャーホラーの金字塔ともいうべき傑作が、1975年に日本で公開された。

この両作は、実際に起きた事件がベースとなった映画である。まず『ジョーズ』は、1916年(大正5年)に起きた、アメリカ・ニュージャージー州の海水浴場“ジャージーショア”でのサメ襲撃事件。そして『悪魔のいけにえ』は、1954年(昭和29年)に起きた、アメリカ・ウィスコンシン州での連続殺人鬼“エド・ゲイン”事件。

1914年から1949年にかけてメジャーで活躍したベーブ・ルース。1918年に“13勝+11本塁打”の2桁勝利&2桁本塁打の“投打二刀流”の偉業を達成した。そう、今年の大谷翔平選手の活躍において、100年前のこのベーブ・ルースの記録に並ぶか、超えるかとシーズン中は世界中が注目し、何度もナレーションを読ませていただいたものだ。

そんな“野球の神”と称えられたベーブ・ルースの神話が、まだ色濃く残っていた頃に起きた驚愕事件が題材となっている両作品。未知のモンスター、常軌を逸した猟奇殺人、情報や記録収集が困難な“神隠し”に近い事件を映画化へと踏み切った、70年代の力強さには脱帽だ。

荒木飛呂彦著『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』。“魔少年”、“来訪者”、そして“奇妙な冒険”を生んだ著者が、各漫画作品へのヒントとなったホラー映画への愛を綴っている。

巻頭には、荒木先生が選んだホラー作品トップ20が記されており、『ジョーズ』(2位)『悪魔のいけにえ』(10位)はトップ10内にランクインしている。因みに1位は、ジョージ・A・ロメロ監督作『ゾンビ』(1979年日本公開)。

おれは人間をやめるぞ!ジョジョーッ!!”、宿敵ディオのこの叫びから、永きにわたるジョースター家の奇妙な冒険がはじまっただけに、『ゾンビ』の1位はうなずける。

蘇る死者たちがスクリーンを覆いつくす“ゾンビ映画”というジャンルを確立した『ゾンビ (Dawn Of The Dead) 』。B級、Z級映画から、人気監督作など、スローな、スピーディーな、グロテスクな、爆笑なゾンビ映画が数多く制作されてきた。

そして『ジョーズ』もまた、キラーシャークを描いた、通称“サメ映画”と呼ばれるジャンルを生み、ゾンビとならびの、サメもまた映画人に製作意欲を掻き立てる存在であり、傑作から摩訶不思議作まで、その背ビレはいまなお、我々に迫り続けている。

およそ500種もいるといわれるサメ。
その中でも、映画『ジョーズ』に登場する“ホホジロザメ (ホオジロザメ) ”、“人喰いザメ”のイメージが強く、その生息域は日本近海も入っており、愛媛県(1992年)、愛知県(1995年)の海域では襲撃事故が起きている。

食物連鎖の頂点・・・サメ子ちゃんとシャチ夫くん

2005年に神奈川県川崎市千鳥運河で、雄としては世界最大級とされる体長4.8メートルのホオジロザメの屍体が発見され、現在“カワジロー”という名前で剥製展示されている。

映画『ジョーズ』にて、シャークハンターのクイントは、海中から姿を表した巨大ホオジロザメを目の当たりにし、“体長は7メートル以上、体重は3トンはあるな”と息を飲むシーンがある。

川崎で発見されたサイズが世界最大級の“雄ザメ”というなら、『ジョーズ』のホオジロザメは、もしかすると雌なのかも知れない。

『ジョーズ』の大ヒットから2年後、1977年に公開された『オルカ』。雄雌分からない獰猛なホオジロザメの『ジョーズ』に対し、『オルカ』の主役は雄のシャチ。我が子を宿した雌シャチを目の前で殺された雄シャチが、その高い知能で、妻子の命を奪った漁師・ノーランに復讐する物語だ。

憎しみに満ちたオルカが、宿敵・ノーランの姿を目に焼き付け、標的を逃さない愛憎劇は、ジョン・ウィリアムズのストラヴィンスキー的危機迫る『ジョーズ』とは一線を画し、悲哀に満ちたエンリオ・モリコーネが奏でられた、記憶に残るモンスターパニック作品だ。

さて、無差別に人間を捕食する『ジョーズ』に対し『オルカ』に登場するシャチは、実は人間を喰い殺していない。よって“マンイーター(人喰い動物)”ではないのだ。

メタル好きはメタファーも好き・・・怖くても真剣に

“Maneater(マンイーター)”と題したモンスターパニック映画や、サメを操るゲームなどもあったりするそうなのだが、男を骨抜きにする魔性の女を“マンイーター”と表現した、ダリル・ホール&ジョン・オーツの楽曲が真っ先に思い浮かぶ。

Oh here she comes
She’s a Maneater

このフレーズが印象的な
『Maneater (邦題“マンイーター”)』。

1982年にリリースされ、ビルボードチャート4週連続1位を記録した、ホール&オーツを代表する楽曲。腹ペコの悪女“雌ホオジロザメ”が、海面に浮かぶ獲物をロックオンする“サメ目線”のあのシーンは、まさに“Oh here she comes”と言ったところではないか。

『氷の微笑』のシャロン・ストーンのようなミステリアスな悪女をテーマにしたかのような、ホール&オーツ『マンイーター』だが、歌詞に綴られた“She”とは、実は女性のことではなく、貪欲かつ安易に富を得ていた当時の“ニューヨーク”を隠喩しているんだそうだ。

そんな“メタファー (隠喩) ”。
水爆実験による突然変異のモンスター“ゴジラ”には、核への抗議“反戦”メッセージが込められていたり、前述『ゾンビ』もまた“人種差別問題”への警告があったりと、その時の時代背景を物語るメタファーには、映画本編よりも恐ろしく、いまなお考えさせられる問題が潜んでいる。

そんな制作側の真意を、いかに読みとれたか?感じ取れたか?散りばめられた伏線、ギミック、そしてメタファー、映画に隠された“裏テーマ”により、血みどろのホラー&パニック映画が“社会派ドラマ”になったりもする。

我々はナレーターは、電波に乗る前、アップロード前、ソフト化される前の映像に、ナレーションを添えていく、言わば最初の視聴者である。

ディレクター渾身のナレーション原稿をいかに理解出来ているか、原稿に向き合うナレーターの読解力が試されているような気がする。

視聴者に分かりやすく、時には裏テーマを悟らせず、大袈裟に、冷静に、寄り添うように、俯瞰的に、こう言ったナレーション演出は、ホラー映画から教わったのかも知れない。

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